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COLUMN

予防医学者・石川善樹さんが語る
人生100年時代の健康づくり 前編

2019.11.01

健康で幸せな老後はどう作る?

人生100年時代を迎えた現在、私たちはどうすれば健やかに歳を重ねることができるのか。年齢を重ねることを前向きにとらえる、プロダクティブ・エイジングの実現を目指すNOMONが共感するのが、幅広い視点で“well-being(ウェルビーイング)”を研究する予防医学者・石川善樹さんである。今回はNOMON×伊勢丹のスペシャルイベントの一環として行われた、石川さんのトークセッションをご紹介する。「人生100年時代の健康づくり」をテーマに掲げたセッションには、ポジティブに歳を重ねる秘訣が満載。これからの時代、私たちは健康とどう向き合うべきなのか。早速、石川さんに伺おう。

「人生100年時代と言いますが、はじめに100年時代をどう捉えたらいいのか、そこから考えてみましょう。まず人類の平均寿命の推移を見てみると、1800年代初頭の平均寿命はわずか29歳、現在は72歳ですからここ200年で2.5倍延びていることになります。それでは私たちの生き方はどう変わったのでしょう。終戦直後の平均寿命は50歳で、定年はありませんでした。寿命を迎えるまで働き続ける、つまり老後を経験していなかったのです。その後、定年が法制化されて人生に老後、つまりお休みの期間が設けられます。戦後の長期にわたり55歳定年が定着しますが、それでも当時の平均寿命を考えると老後は十数年しかありませんでした。戦後60年で定年年齢は実質的に10年ほどしか延びていないのに、それをはるかに上回る勢いで平均寿命が延びた。つまり長すぎる老後が問題なのです。人生100年時代では定年を75歳にしないと、医療制度や社会保障制度など、社会を支えるシステムは機能しなくなっていきます」

人生100年時代に求められる健康寿命

人生50年時代は「働く」だけで終わった人生が、70年時代になって「学ぶ」「働く」「休む」人生に変化した。それでは100年時代は、そこにどんな要素が加わるのだろうか。介護?寝たきり?

「人生を季節で考えてみましょう。がむしゃらに仕事に邁進する時期を夏とすれば、働き盛りを過ぎてリタイアするまでが秋。秋はすでにピークを超えていますから、夏とは視点やペースを変えることが必要になりますよね。実りの秋をいかに過ごすかで、次に控える冬(老後)が変わってくるのではないでしょうか。それでは、実際に冬を迎えたらどうするのか。人生100年を健やかに迎えるコツを考えるにあたり、いくつかヒントとなるエピソードをお話しましょう」

「ロシア南部に100歳以上の元気な高齢者が多いことで知られるアブハズという長寿村があります。ここでは高齢者に対して『お若いですね』と言うことは失礼にあたるのだそうです。それよりも『お年を召して見えますね』と言うことが正しい。なぜなら、彼らは年を重ねることに高い価値を置いているから。老いに対してポジティブなイメージを持っているのです。実際、老いに対してポジティブなイメージを持つ人は、ネガティブなイメージを持つ人よりも平均寿命が7.5年も長いという調査結果もあります。若さばかりを重視するよりも、自らの老いに向き合い、いいイメージを持つことが大切だと考えられます」

人とのつながりが長生きの要因?

もう一つ、健康で幸せに生きるための要因が「つながり」だ。

「ここに65歳以上の約13,000人の『介護のなりやすさ』を4年にわたって追跡した調査結果があります。これによると、何かしらの組織に属している人は所属組織のない人に比べ、介護のなりやすさは7%減少。3つ以上の組織に属している人の場合は22%も減少していました。組織に所属する、つまりつながりがある人はない人に比べ、要介護状態になりにくいといえます」

「『つながり』は寿命にも関係しています。長生きの要因には何があると思いますか?一般的には太りすぎない、適度な運動、酒量はほどほど、タバコは吸わない……などが挙げられますよね。実は、早死にしない生活習慣の第一位である『タバコを吸わない』よりも『つながりがある』方が、はるかに長生きに貢献していることがわかりました。これは男性も女性も同様です。同じ急性心筋梗塞で入院した75歳以上の男女の、6ヶ月以内の死亡率を追跡した調査では、入院中にサポートしてくれる人がゼロの患者は6ヶ月以内に69%が亡くなっていたのに対し、入院中にサポートしてくれる人が1人いた場合は死亡率43%、2人以の場合は26%にまで減少しています。僕は21世紀最大の発見だと思っていますが、いくつになっても何かしらのつながりを持つことが健やかな老後を導くといえるでしょう」

リタイアして生きがいを見失い自宅に閉じこもってしまうと、周囲とのつながりがなくなり認知症になったり、果ては足腰が弱くなって要介護状態に陥ってしまったり。「年を重ねることをポジティブに捉え、定年後も自治会や趣味の集まりなどで積極的に社会との関わりを持ち、生きがいややりがいを見出すことが重要です」と石川さん。

後編では、人生100年時代のカギとなるwell-beingについて教えていただこう。

石川善樹
1981年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーヴァード大学公衆衛生大学院修士課程を経て自治医科大学で医学博士号取得。予防医学、行動科学などを専門とし、「人がよりよく生きる(well-being)」をテーマにした研究活動、講演、執筆を行う。

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