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COLUMN

予防医学・石川善樹博士が語る
人生100年時代の健康づくり 後編

2019.11.26

“Well-being”を保ちながら、歳を重ねるために

予防医学の枠を超えて“well-being(ウェルビーイング)”という新しい価値観を作り出そうとしている石川善樹博士。前編では、人生100年時代に健康、かつ幸せに年を重ねるコツを伺った。それでは、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも「よく生きている」状態を指すwell-beingをどう考えていけばいいのか。後編では石川先生がwell-beingの本質を紐解く。

人生100年時代を迎えて新しい生き方や健康、幸福を模索する現代において、注目を集めているのがwell-beingである。well-beingとは「肉体的にも、精神的にも、社会的にも人がよく生きている状態」を指す。予防医学の先にある新しい考え方だが、このwell-beingにこそ未来型の健康観、つまりプロダクティブ・エイジングのヒントがあるのではないだろうか。

「近年、well-beingばかりが取り上げられていますが、実は僕が探しているのは“良い人生”なんです」と、石川先生。人類が何千年にもわたって議論してきた、”良い人生”。自分にとっての良い人生がどんなものか、言葉で表現できる人は少ないだろう。なぜなら私たちは普段、自分の人生について思いを馳せるということをほとんど行わないからだ。

「良い人生を構成するものにwell-beingとwell-doingがあります。well-beingは人間として存在するあるがままの状態を、well-doingは目的を持って何かを成す、役割や責任を果たすことを指します。どちらが欠けてもいけません。well-beingとwell-doingのバランスをうまく取ることが良い人生なのではないか、そんな風に僕は考えています。

これからの人生を
どう具体的にイメージできるか

たとえば、あなたがアンケートに答えるところを想像してみてください。

『いまいくら欲しいですか、何が欲しいですか』という設問があったら答えられますか?おそらく具体的な内容を思いつくでしょう。
それでは『これから1年という期間をあなたにあげます。自由に使えるとしたらどんな風に使いますか』という設問はどうでしょうか?具体的に答えられる人はほとんどいないと思うんです。お金が欲しい、健康が欲しいというイメージはあるのに、じゃあ、肝心の『それらをどうしたいのか』と問われるとよくわからない。どういう時間の使い方がより良い人生を導くのか、意外とイメージが湧かないものなんですね。

『どうやって仕事をしよう、どう収入を確保しよう』という目先のことは考えるけれど、どう人生を過ごすのかを具体的にイメージしている人はとても少ないのが現状です。けれど良い人生をかなえるためには、目先のことも含めて人生全体をなんとなくでもイメージすることが大切でしょう。

私たちが人生全体について考えてみないのは、目先のことで手一杯だから。多くの人は先のことを考える余裕はないのだ。

「目先のことで手一杯という状態はwell-doing、つまり役割と責任は果たしているが、well-beingを犠牲にしていることになります。ではどうすればwell-beingが充実するのか。矛盾しているように思えるかもしれませんが、そのためにはなるべく早くwell-doing(仕事の成功)をすることです。

例えば僕が健康づくりのコンサルティングで企業と関わる場合、まずは本業の改善、つまりwell-doingから着手します。本業を改善し、well-doingを達成して初めて、睡眠や食事を振り返る余裕が生まれるんです。ビジネスがうまくいけば、空いた時間と気持ちの余裕をwell-beingに回せるんですね」

well-doingからwell-beingへの切り替えの問題もある。50代になって迎える母親定年や役職定年。それまでしっかりwell-doingしていたのに、ある日突然、well-beingへのフォーカスを余儀なくされる。そういうモードの切り替えに直面するのがロングライフなのだが、そこに戸惑う人は少なくない。

「一般的に、女性はスムーズに切り替えられることが多いんです。なぜなら、人生を生きる過程で諦めてきたことがたくさんあるから。母親定年を迎え、昔、諦めたことに再び取り掛かることがwell-beingになるようなんです。問題は男性ですよね。男性が諦めたことって、『野球選手になる!』みたいな、子どもの頃の夢くらいのものでしょう(笑)? 役職定年を迎えて、さあ本当にやりたいことをやりましょうと言われても、スキルや経験にしがみついてズルズルとこれまでのwell-doingを引きずってしまう。あるいは、『とりあえず定年はするけれど、雇用を延長してもらってその間にどうするか考えよう』というように、面倒な考えごとを先延ばしにしてしまう。男性の方がwell-beingに比重を置くことが難しいんです」

ビジョン、ミッションを共有できる
存在がカギとなる

それではスムーズにwell-beingに切り替えるためのコツはあるのだろうか。

「well-beingでいるための明確な答えはありませんが、これまでにやったことがないことに挑戦してみるというのはおすすめです。
例えば家庭内での自立があります。今まで迷惑をかけたから今後は奥さん孝行をしたいという男性には、『平成は女性活躍の時代、令和は男性の家庭活躍の時代』とお話しするんです。男性にありがちな勘違いですが、奥さん孝行って旅行することじゃないんですよ(笑)。そんなことはいいから、自分で掃除して洗濯して料理して、家庭での自立を覚えてください、と。それがいちばんの奥さん孝行であり、家庭内での役割を担うことにもなります。

あとは介護に備えての脱毛とか(笑)。脱毛サロンで同じビジョンミッションを共有する友人ができたりするのですが、実はこの『ミッションを共有する友人』という存在が大切なんです。新しいつながりが生まれると同時に、いくつになっても生き生きと人生を楽しんでいるロールモデルを間近にして、『自分もこうなれるかも』とポジティブなイメージを持てるのです。お話ししたように、つながりと歳を重ねることにいいイメージを持つことが重要ですから」

50代、つまり人生100年時代の折り返し地点で、いかにwell-beingを充実させ、well-doingとのバランスを取るのか。石川先生のインタビューから見えてきたのは、早い段階で自分なりの人生プランを思い描くことの大切さだ。自分にとっての有意義な余生とはどんなものなのか。歳を重ねた先にどんな価値を置くのか。良い人生、つまり長く人生を享受するプロダクティブ・エイジングのヒントは、自分らしい人生設計の中で見つかるのかもしれない。

石川善樹
1981年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーヴァード大学公衆衛生大学院修士課程を経て自治医科大学で医学博士号取得。予防医学、行動科学などを専門とし、「人がよりよく生きる(well-being)」をテーマにした研究活動、講演、執筆を行う。

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