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NMN コラム

NMNと糖尿病について

投稿日:2021.04.19  |  更新日:2021.05.07
NMN

■ 要点

糖尿病ってなに?

生活習慣病の代表格、糖尿病は血糖値異常から引き起こされる怖い病気

NAD+/NMNとは?

NAD+は生きていくのに非常に重要な生体内成分。
・年とともにNAD+を作る能力がどんどん低下していく。(NAD+の分解も年とともに亢進)
 →NAD+低下が糖尿病を引き起こす一因である可能性が示された。

NMNの糖尿病に対する効果

 →マウスの糖尿病モデルではNMNにより糖尿病が改善した結果が複数の論文で示されている

NOMONは最先端の科学を食卓へ届けることを目指し、老化に関する最新の研究成果を日々精査し、プロダクティブエイジングに向けた、日常に応用可能な知見を常に探索しています。その中で、日々の生活習慣、とりわけ食事がその病気の発症に大きな役割をになっている糖尿病に関してはその予防法の模索を重要視しています。

その中で、様々な組織で抗老化作用が報告されているニコチンアミド・モノヌクレオチドNMNと呼ばれる経口摂取可能な栄養素が糖尿病に対し効果的に働く可能性がある今回の論文に着目しました。NMNとは、生きていくのに必須のNAD+という成分が身体の中で作られる過程において、一歩手前の材料と言われています。そのNAD+は加齢とともに減少しますが……この減少が糖尿病のトリガーになる可能性が示されています。

今回NMNを摂取することで、糖尿病にどんないいことがありそうなのか、これからご紹介していきます。

糖尿病ってなに?

糖尿病は代表的な生活習慣病に分類される、血液中の糖分が通常よりも高くなってしまう病気です。

身体のすべての細胞が糖分をエネルギーとして利用しており、生きていく上で欠かせない栄養素である糖分ですが、血液中の糖分が多すぎると過剰な糖分が身体中で悪さをすることで各組織にダメージが起きてしまいます。通常ですと血糖値は高すぎず、低すぎず、常に一定になるように厳密に制御されています。例えば肝臓は糖分が足りなくなると、それまで蓄えていたグリコーゲンと呼ばれる多糖類を分解し、血液中に糖分を放出することができます。膵臓から分泌されるインスリンというホルモンは肝臓や筋肉、脂肪に糖分を吸収するよう命令し、食事の後の上昇した血糖値を低下させる働きがあります。このような、血糖値の維持がうまく機能しなくなった時、糖尿病と呼ばれる病気を発症します。

平成30年度の厚生労働白書によると、日本で1000万人を超える人が糖尿病が強く疑われる人に分類されており、糖尿病の疑いがある人を含めると2000万人にも登ります。正常なコントロールから外れて、あふれ出た血糖は身体中様々な血管を障害し様々な臓器の機能低下を引き起こします。また病気の初期は自分で気づくことは困難な非常に怖い病気であり、私たちが生活習慣に気をつけなければならない大きな要因です。

NAD+/NMNとは?

NAD+はニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドの略で、生体内エネルギーの通貨であるATPの次に身体に重要な成分と言われるくらい、生きていくのに必須の成分です。糖であるグルコースを分解してATPを作り出す過程で使われる物質で、それ以外にもタンパク質合成、脂質代謝、壊れた遺伝子を修復する場面や老化に重要な役割を果たすサーチュインが働く際といった様々な場面で使われています。NAD+は体の中ではアミノ酸の一種トリプトファンやビタミンB3(ナイアシン、ニコチンアミド)を元に作られます。NAD+の合成に最も重要と言われるNAMPTと呼ばれるニコチンアミドからNAD+を合成する酵素は加齢とともにどんどん少なくなります。またCD38と呼ばれるNAD+を分解する酵素も存在し、この分解する働きが加齢とともに増加します。年とともに壊れた遺伝子を修復する必要性も増すため、NAD+が使われる場面も増えます。これら複合的な原因が重なり合い、加齢に伴う各組織のNAD+量が減少を引き起こし、NAD+の重要性からこの低下が様々な組織で機能不全を引き起こすと考えられています。

NMNはニコチンアミドモノヌクレオチドの略で、このNAD+の直前の前駆体です。NMNはこのNAD+の減少を抑制する可能性がある物質として近年注目され、その抗老化作用を追求する研究が世界中で数多く行われています。

NMNの糖尿病に対する作用?

2011年、ワシントン大学医学部吉野先生、今井先生らのチームによりNMNが糖尿病での血糖値制御不全を改善させる可能性があることが初めて報告されました(文献1)。糖尿病を引き起こす原因としては遺伝的なものの他、高カロリー高脂肪含有の食事を長く摂ることや加齢そのものがリスクとなることが知られています。この論文によると、高脂肪食をマウスに食べさせると、肝臓や脂肪のNAD+レベルを低下させることが示されました。このことはヒトでも普段から脂肪分の高いファストフードばかり食べていると組織中のNAD+量が少なくなってしまうことを示唆するものと考えられます。マウスでは加齢によっても血糖値維持に重要な膵臓、肝臓、脂肪、筋肉でNAD+量が減少することも示されました。高脂肪食を食べさせて耐糖能異常を引き起こさせたマウスに500 mg/kgのNMNを投与し、NMNの耐糖能に対する効果を調べました。グルコースを投与して血中のグルコース量が低下する様子を調べるグルコース負荷試験を行った結果、NMNを投与していない対照群に比べて耐糖能異常が雌では大幅に、雄では雌に比べて軽微ですが統計的に有意に改善されました。雌マウスではインスリン負荷時の血糖値の低下がNMN投与によってより低下する結果が認められており、この結果はNMNが血糖の取り込み促進を示しています。以上の結果はNAD+がインスリン分泌やインスリンによって引き起こされる糖の取り込み、利用に重要な物質であること、肝臓や脂肪にNAD+量の低下が耐糖能異常を引き起こす一因となっており、その低下を抑制することが耐糖能異常の改善につながる可能性を示しています。

また耐糖能異常を示す加齢マウスにNMNを500 mg/kg、1回だけ投与した際も雌、雄ともに耐糖能異常が改善するという結果も示されました。耐糖能異常を示す原因が高脂肪食であっても加齢であっても、NMNはそれを改善させるポテンシャルを持つことが示唆されました。

今井先生らのグループはこれ以外にもNMNをマウスに12ヶ月長期投与する連投試験も行っています(文献2)。この際NMNの安全性以外にもNMNの様々な抗老化作用が示されており、その一つとして耐糖能に対するNMNの効果も検証されています。マウスの体重1kgあたり100 mg、300mgの2つの用量のNMNをマウスに12ヶ月間飲ませているのですが、どちらの用量でもグルコース負荷試験で対照群に比べて血糖値が有意に低下するという結果が示されました。
異なる3つの試験系を用いたにもかかわらず、NMNの耐糖能異常に対する効果に関しては結果は一貫しており、同じ結論が導き出されています。今後NMNがなぜ耐糖能異常を改善する作用を示すのか、さらなる研究に期待が持てます。

終わりに

以上、NMNの耐糖能異常、糖尿病に関する研究結果について紹介しました。これらのデータはすべて動物で行われた実験ですので、ヒトでの効果を明らかにするにはヒトでの臨床試験結果を待たなくてはなりません。もし同じような効果がヒトでも示されるのだとしたら、生活習慣の乱れによって引き起こされる糖尿病に関しては、食事療法や運動療法に加え、NMNの摂取を行うことでより効果的な改善が期待できるのではないでしょうか?

[ 参考文献 ]
1 Yoshino et al., Nicotinamide mononucleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice. Cell Metab. Cell Metab. 2011 Oct 5; 14(4): 528–536.
2. Mills et al., Long-term administration of nicotinamide mononucleotide mitigates age-associated physiological decline in mice
Cell Metab. Cell Metab. 2016 Dec 13; 24(6): 795–806.