■ 酸化ストレスと研究の概要
この研究は、わさびの根茎に含まれるスルフィニル成分の1つ「わさびスルフォラファン(6-MSITC : 6-methylsulfinylhexel Isothiocyanate)」の健康増進効果を、身体の酸化ストレス度の観点から検証した研究です。
■カラダの酸化ストレスとその指標である8-OHdG
日々の呼吸や生活により、体内では活性酸素が発生しています。活性酸素は強い酸化力を持ち、体内の情報伝達物質や免疫機能として働くことが知られていますが一方で、過剰に発生すると自身の細胞まで酸化させてしまいます。 過剰にできた活性酸素によって細胞内のDNAが酸化され、ダメージを受けた状態のことを“カラダの酸化ストレス” と呼んでいます。 酸化したDNAの一部は8-hydroxy-2’-deoxyguanosine(8-OHdG)という別の物質になり、このDNA上に形成された8-OHdGの増加は老化や発がんリスクに関連すると考えられています。身体は自らの修復機能により8-OHdGをDNAから切り離して体外へ尿として排出しますが、この時の尿中8-OHdGの量を測定することで身体の酸化ストレス度を調べることができます。また精子においても同様に、酸化ストレスが進むと精子の動力源であるミトコンドリアのDNA が分断され機能しなくなり、 その結果、精子はエネルギーを作れなくなり、最後には動けなくなると考えられています。この精液中の酸化ストレスも精液中の8-OHdGの量を測定することで調べることができます。
■抗酸化作用のある6-MSITC
わさびの根茎に含まれる希少な健康成分である「わさびスルフ ォ ラ フ ァ ン (6-MSITC : 6-methylsulfinylhexel Isothiocyanate)」は、これまでも⾮臨床研究において抗酸化作⽤※1や抗炎症作⽤に加えて抗菌活性、抗癌活性、抗⾎⼩ 板凝集抑制活性など※2※3の多彩な薬理効果があることが報告 されています。 また近年、「わさびスルフォラファン(6- MSITC)」 をアルツハイマー型認知症モデルマウスに継続投与させることで、認知機能が改善したという報告もされており、その作⽤機序として「わさびスルフォラファン」 がNRF2(酸化ストレス応答転写因⼦)を活性化し、酸化ストレ スが抑制される事が⽰唆されています※4。この結果から、ヒトにおいても、「わさびスルフォラファン」 の摂取が酸化ストレスを抑制する可能性が考えられます。
研究担当者:
NOMON株式会社 チーフテクノロジーオフィサー 中島 良太
研究実施施設:
株式会社ヘルスケアシステムズ
研究の目的 :
「わさびスルフォラファン」含有サプリメント(以下「本試験食品」)を20 歳以上65 歳未満の成人に4 週間連続摂取させたときの健康増進効果について、探索的に評価することを目的としました。
研究内容 :
「わさびスルフォラファン(6-MSITC)」含有サプリメントの酸化ストレスに関するオープン試験
(UMIN 臨床試験登録 ID:UMIN000040210)
● 本試験食品:「わさびスルフォラファン(6-MSITC)」含有サプリメント
(1粒に1.6 mgの「わさびスルフォラファン(6-MSITC)」を含む)
● 摂取方法:1日1粒、4週間
● 有効解析対象者:20歳以上~60歳未満の男女59名
● 検査キットを用い、本試験食品摂取前後の尿中あるいは精液中の8-OHdGを測定(尿中8-OHdGについては、尿中クレアチニン値で補正)
結果:
• 尿中酸化ストレスレベル(尿中8-OHdG)
全ての有効性解析対象者(59名)の尿中8-OHdGにおいては、本試験食品の摂取前後の有意な差は認められませんでした。一方で、摂取前の尿中8-OHdGが中央値以上の被験者(24名)を対象としたところ、本試験食品の摂取前後で尿中8-OHdGの有意な低下が確認されました(図1)。
• 精液中酸化ストレスレベル(精液中8-OHdG)
男性被験者(29 名)のみを対象とし検査を実施
全ての男性有効性解析対象者(29名)の精液中8-OHdGにおいて、被験食品の摂取前後の有意な低下が確認されました(図2)。
考察:
本試験食品を4週間連続摂取することで尿中および精液中の8-OHdGが低下する効果が認められました。本試験食品に含まれている「わさびスルフォラファン(6-MSITC)」 には、酸化ストレス応答転写因子であるNRF2を活性化する作用があることが、動物実験において報告されていることから、本研究における尿中および精液中8-OHdG の低下も同じくNRF2活性化作用によるものである可能性が示唆されました。今後、ヒトにおける「わさびスルフォラファン(6-MSITC)」の研究が進むことでさらなるエビデンスが蓄積される事が期待されます。
[ 引用・参考文献 ]
※1 Mizuno K. Kume T, Muto C, Takeda-Takatori Y, Izumi Y, Sugimoto H, Akaike A, J.Pharmacol. Sci., 115 (3):320-328, 2011
※2 Uto T, Hou D, Morinaga O, Shoyama Y. Advances in Pharmacol.Sci. Article ID 614046, 2012
※3 Kuno T, Hirose Y, Yamada Y, Imaida K, Takanatsu K Nori Y, Mori H. Oncol. Let. 1: 273-278,2010.
※4 Uruno, A., Matsumaru, D., Ryoke, R., Saito, R., Kadoguchi, S., Saigusa, D., & Yamamoto,M. (2020). Molecular and Cellular Biology.
※5 FUKUCHI, Yoshiko, et al. Food science and technology research 10.3 (2007): 290-295.