NOMON株式会社(以下、NOMON)は、プロダクティブ・エイジング コンソーシアム共催として、新型コロナウイルス流行下における外出自粛環境での健康維持・増進を目的とした「食」、「運動」に関する研究アイデア、提言を広く募集(募集期間:2020年4月27日~5月18日)いたしました。多くの応募提案の中から、厳選な審査を重ね、5つの提案を選出いたしました。
「在宅での料理」が「体重・ウェルビーイング」に与える影響に関する研究、体内時計年齢算出手法の開発と生体リズム改善を促す生活習慣へのリアルタイムフィードバックシステムの構築、日本酒由来のオーガニック米発酵成分の免疫効果と完全栄養食に関する研究、身体活動制限下におけるフィットネスプログラムの提供とフィードバックシステムの構築、ポリアミンによる骨格筋増強または筋萎縮予防効果の検証といった多彩なご提案が選出されました。
採択されましたご提案は、以下の通りです。
概案概要は以下の通りです。
「在宅での料理」が「体重・ウェルビーイング」に
与える影響に関する研究
概要
「自分で料理すること」が健康に有効である可能性が注目されているが、わが国における知見は限定的である。そこで本研究では、インターネットを使った縦断調査(同一の2,000人を追跡調査する)を行い、在宅で行うあたらしい生活様式の一つとして「料理」があることをエビデンスとして実証することを目的とする。
エビデンス
ハーバード大学のDavid Eisenberg教授らは、2つのコホート研究の結果から、「(外食をする人たちに比べて)家で夕食を作って食べる人たちは、体重が増えにくく、2型糖尿病にかかりにくい」と報告している。
審査者コメント
料理という身近な行動が、健康に有効であるという着眼点に興味をひかれた。身近で、気軽に取り組めて、エビデンスに裏付けられる行動を継続することがプロダクティブ・エイジング実現のためには必要であり、是非エビデンス構築を支援させていただきたい。
体内時計年齢算出手法の開発と生体リズム改善を促す生活習慣へのリアルタイムフィードバックシステムの構築
概要
体内時計年齢をリアルタイムで定量化する技術を開発し、ウェアラブルデバイスとアプリによりユーザーに適切な行動を促すフィードバックを行うことで、生体リズムを効果的に改善して健康維持と老化防止を達成する仕組みを構築する。
エビデンス
体内時計は加齢と共に変化し、自由行動下では、ほとんどの生理機能で概日リズムの振幅が低下し、位相が早くなることが知られている。 生体リズムの周期長が,24時間に近い生活を送るほど寿命が長いことが確認されており(右図、サーカディアン共鳴現象仮説)、外出自粛による生活リズムの変化が健康と老化に影響を与える可能性は高いと考えられる。
審査者コメント
自分の健康状態を生体リズムという形で定量化することは、客観的な健康状態の評価にもつながり、自らの健康状態を理解するには有益であると考える。加齢に伴う体内時計の変化を認識することで、どのような行動変容が起きるのか、期待したい。
日本酒由来のオーガニック米発酵成分の免疫効果と
完全栄養食に関する研究
概要
当社は広島県の山間部に位置する神石高原町の酒蔵跡地で「浄酎-PurifiedSpirit」(左写真/特許取得済み)という日本酒由来のRiceWiskeyの製造販売を行う。お酒の製造工程から抽出されるオーガニック酒粕と日本酒由来のノンアルコールのオーガニックアミノ酸エキスを活用した完全栄養食の菓子を調理士免許取得者と提携し製造する。製造された菓子の成分分析をし、摂取した人の腸内環境の変化を観測する。Covid-19により室内時間が増え、運動不足になりメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)所謂「隠れ肥満」を心配する人、免疫食、腸内環境の調整に関心を持つ人に対し「身体の内側を浄化する」ことを目的とした新たな間食文化を提唱していく。
エビデンス
- ・酒粕や米麹を主原料とアミノ酸エキスは腸内での善玉乳酸菌・乳酸菌の増殖をうながし、糞便量や水分量を調整し、腸内のバリア機能を持つムチン量の増加に寄与し、腸内環境を良好に改善する。また酒粕に含まれる米麹には、GABAが豊富に含まれ血圧の上昇を抑える作用がある。
- ・一般のタンパク質は胃で分解され、腸で吸収されるが、酒粕に含まれるレジスタントプロテインや食物繊維はコレステロールから作られる胆汁酸を吸着し、体外への排出を促す。
- ・メタボリックシンドロームは糖尿病 高血圧 腎臓病 等症生活習慣病を引き起こす原因になる。生活習慣病には自覚症状がないことが多く、気づいた頃には症状が進行して完治が難しいことが多い。
審査者コメント
日本酒製造業の新たな可能性を創出することにもつながり、かつ新たな栄養成分の摂取の形を作り出すことも期待される。栄養摂取に関する考え方と、日本酒業界の新たな価値基準創造につながる取組みとして支援させていただきたい。
身体活動制限下におけるフィットネスプログラムの提供とフィードバックシステムの構築
概要
新型コロナウィルス感染症流行下の身体活動が制限された状態を行動変容のチャンスと捉え、プロダクティブ・エイジングを実現するための身体活動量増加へのアプローチおよび結果のフィードバックシステムを構築することを目的とする。目的達成のために、年齢段階に応じたフィットネスチェックプログラム、トレーニングプログラムをオンラインで配信し、即時フィードバックを可能にするシステムを構築する。
エビデンス
【身体不活動の現状】
①健康日本21評価作業チーム「健康日本21」最終評価
②Global Recommendation on Physical Activity for Health(WHO, 2011)
【大学生における予備的検討(下図)】
大学生にオンラインフィットネステストを実施し、予備的データを取得済み
審査者コメント
運動やスポーツを実践する上でのハードルを解消する試みは、幼少期から高齢期までの方々へ適応を可能にするヒントが多く存在すると考える。今回のご提案は、実際のエビデンス取得から、システム構築、新たな運動、栄養に対する介入方法を見出すご提案であり、幅広い年齢層への解決策が創出されることが期待される。
ポリアミンによる骨格筋増強または筋萎縮予防効果の検証
概要
運動による健康維持・増進には、骨格筋の働きが必須であるため、加齢による骨格筋萎縮予防が重要である。生命維持に重要なアミンであるポリアミンが、心臓の健康、健康寿命延伸に寄与することや高齢マウスの骨格筋ではポリアミンの1つであるスペルミジンの低下も認められている。そこで、マウスを用いてスペルミジン摂取による骨格筋の維持/萎縮予防に関する作用を検討する。
エビデンス
ポリアミンが、心臓の健康に重要であることや健康寿命延伸に寄与すること、高齢マウスではポリアミン合成経路関連因子Odc1,Smoxの発現が低下し、ポリアミンの1つであるスペルミジンの骨格筋内濃度の低下が報告されている。
(Eisenberg et al. Nature Medicine 2016, Uchitomi et al. Sci Rep 2019)
審査者コメント
加齢に伴い体内のポリアミン量が低下することが知られているが、日本人にはなじみのある納豆に多く含まれている。健康寿命延伸においては加齢に伴う筋萎縮であるサルコペニアに対する対策は重要である。ポリアミンの骨格筋に対する作用に関するエビデンス強化、新たな知見創出に期待したい。