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R&D

NMNは運動機能を向上させるのか?

2020.01.28

100歳になっても現役でスポーツを楽しむ。
NMNはそんな未来を叶えるかもしれない。

体内のNAD量は加齢だけでなく激しい運動によっても減少することがわかっている。それではNMNを摂取してNADを補うことで、運動機能を向上させることはできるのだろうか。実際、NMN を投与したマウスの実験ではエネルギー代謝の促進や身体活動量の上昇、脂質代謝の改善、骨格筋ミトコンドリアの改善による筋肉量の上昇などが認められている。ということは、NMNには運動機能を向上させる効果も期待できるのではないか。その仮説を実証するために日本体育大学で行われた実験を検証してみよう。

今回の実験は日本体育大学で運動生理学・生化学を研究する中里浩一教授に協力を仰ぎ、実施された。

被験者となるのは、同大学に所属する10名の若年健康男性。いずれも一定の運動習慣や運動経験はあるものの競技者ではない。これら被験者に高い運動負荷をかけ、疲労困憊して運動を中止するまでの時間を計測、NMN摂取前と摂取後で生じる変化を検証した。なお、NMNは経口で摂取、摂取期間を1週間とし、プラセボ対照二重盲検法にて実施した。

NMN摂取前の被験者は最大の運動強度でサイクリングを行い、疲労困憊して運動を中止するまでの時間を計測。1週間に渡ってNMNを摂取し、今度は最大酸素摂取量60%の運動強度のサイクリングを45分間行った後、運動強度を最大まで高め、疲労困憊となるまでの時間を計測した。なお、いずれも運動前後に採血を行って血糖値や脂質の値をチェックしたほか、運動中に呼気ガスを計測し、呼吸交換比とエネルギー基質酸化量(※1)を算出した。

糖の消費が抑制され
脂質代謝が高い結果に

それでは早速、中里教授に実験の解説をお願いしよう。

「NMN摂取前と摂取後を比較すると体組成に変化はありませんでしたが、呼吸交換比は有意に低値を示し、糖の消費が抑制されて脂質代謝が高くなっていました(※2)。これはつまり、エネルギー効率が良くなっていることを示唆します。同じ運動強度でも楽に運動できているということです。持久力の向上が期待されます」

今回はトレーニングを習慣的に行っている健康な若年男性を対象にした実験ということもあり、「たった1週間で、NMNが彼らに効くわけがないと思っていた」と中里教授。

「老化研究は専門外でありますが、NMNにまつわる論文などは見ていました。が、NMNの作用はあくまでも加齢によりNADが減少し、機能低下を起こしている場合に限ると思っていたのです。そもそもNADはヒトが本来体内に持っているもの。彼らのように健康そのものの若い被験者にニュートラシューティカルは不要だろう、と。ですから今回の実験結果には私自身、非常に驚いています」

この結果が中里教授を驚かせた点は2つある。ひとつは、NMNの作用がなぜか呼吸生理に現れた点である。

「NMNを摂取して、消化吸収、血液内や組織内での代謝を経て、最終的に呼吸に影響が現れた。ただ、そのメカニズムは全くわかっていません。今後はそのメカニズムを運動生理学の観点で紐解いていくことになりそうです」

再現性が高い。
それは極めて稀なケースである

2つ目はその再現性の高さである。

「運動生理学をはじめとする自然科学においては『再現性』が非常に重要です。生理学分野で言えば逃避反射のような、痛みを感じて手を引っ込めるような反応は、感覚神経・運動神経から生じるものでどんな人にでも起こる反応と言えます。NMNを摂取して、メカニズムはわからないながらもこのような呼吸生理にまつわる現象が現れました。それも今のところ再現性がかなり高いのです。被験者は若年・健康・一定の運動習慣あり・男性という条件以外、身長、体重、経験した運動種目、現在の運動量、運動レベルなどのバックグラウンドは全くバラバラ。こういう管理条件にも関わらずこれだけ再現性が高い結果が出るというのは非常に珍しいケースなのです。あるいは我々がまだ知りえていない部分に被験者の共通性があるのかもしれません」

※1
呼吸交換比は一定時間内に消費した酸素の量に対して産生される二酸化炭素の量の比を指す。これにより体内でどのような割合で栄養素が燃焼しているのかがわかる。糖質が使われた場合は高値を示し、脂質が燃焼した場合は低値を示す。脂肪を多く燃焼させた場合、酸素の消費量に対して二酸化炭素の排泄量が少なく、呼吸商の値が減少する。エネルギー基質酸化量は運動中、エネルギーを産生するために筋繊維によって燃焼された糖と脂質の酸化量を表す。

※2
運動時に必要なエネルギーは主に糖質(グリコーゲン)と脂肪から作り出される。激しい運動時に代謝される糖は、消化吸収されやすく速やかにエネルギーに変換される効率のいいエネルギー基質だが、体内の貯蔵量がそれほど多くないため運動中に枯渇してしまうことがあり、常に補給し続けなければならない。糖が枯渇すると次に脂肪がエネルギー源として使われる。脂肪は糖質に比べて貯蔵量が多いという利点がある反面、糖質ほど効率よくエネルギーに変換できないというデメリットがある。瞬発系の運動では糖が、持久系の運動では主に脂肪がエネルギー源となるのはこのためである。

脂質代謝に影響を及ぼす
NMNのメカニズムとはいったい

この実験から果たして何が言えるのか。

「本学の学生のように若いころから運動を習慣的にやっていてある程度の高負荷に耐えられる人たちの、運動中の脂質代謝が向上した。これは従来の老化に対する効果とは全く異なるメカニズムが関与しているかもしれません。すなわち、高強度の運動負荷によって不足したNADは経口摂取によって速やかに補えるかもしれないことを示唆するからです。このことは特に高度に運動負荷を上げなければならないトップアスリートにおいてNMN摂取はその生体負担度を軽くすることを期待させます。さらに、コンペティティブなスポーツの分野でいうなら、体を絞らないといけないアスリート、特にハードな減量が要求される階級系スポーツの競技者にとっては非常に有益といえそうです。脂質代謝が上がるということは体脂肪を落としやすいということですから」

それでは、老化に伴う機能低下には今回の実験結果をどう紐づければいいだろうか。

「残念ながらNMNがどうして脂質代謝に影響を及ぼすのか、この時点ではまだ解明できていません。今回の実験を受けて研究は始まったばかりなのです。ただ、今後の方向性は見えてきたと言えます。今回は運動中の脂質代謝しか見ていないので、今後はNMNの摂取によって運動中のパフォーマンスが向上するのかも見ていきたいポイントですね。
さらには基礎研究での裏付けも必要です。運動生理学の観点から、NMNと呼吸生理のメカニズムを明らかにしていきたいと思っています
メカニズム解明が進めば、この現象がトップアスリートや高い運動習慣を持つ人のみならず、一般の方が運動する際の生体負担度を下げるための補助食品開発へとつながる可能性が見えてくることを期待しています」

果たしてNMNは運動効率にどう作用するのか。メカニズムの解明が待たれる。


中里浩一
博士(東京大学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業後、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系専攻。2011年日本体育大学体育学部健康学科運動生理学研究室教授に就任。現在は日本体育大学保健医療学部整復医療学科に所属し、専門は運動生理学、運動生化学。運動や栄養摂取などの外的刺激が骨格筋を中心とした運動器、神経系、代謝に与える影響を臨床・非臨床の両面において分子運動生理学的観点から検討している。

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