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NMN コラム

NAD+の重要性 〜筋肉のパフォーマンスの観点から〜

投稿日:2021.04.01  |  更新日:2021.05.07
NMN

■ 要点

NAD+は生きていくのに非常に重要な生体内成分。

・ 年とともにNAD+を作る能力がどんどん低下していく。(NAD+の分解も年とともに亢進)
  → NAD+がどんどん身体からなくなっていく
・ これを補うことで、年とともに衰える様々な身体の変化を回復させることが基礎研究からだんだんわかってきている

(ミトコンドリア病患者さんで)NAD+を上げると(文献1)

・ 筋肉中のミトコンドリアの量が増える→エネルギー産生効率向上を示唆
・ 筋力が増強される
・ 内臓脂肪が減少する

運動すると筋肉でNAD+が2倍に増加(文献2)

・ NAD+合成酵素NAMPTの量が筋肉で増加する
・ それには比較的負荷の高いレジスタンストレーニングが必要

なぜNOMONはNMNなのか?

NOMONは最先端の科学を食卓へ届けることを目指し、老化に関する最新の研究成果を日々精査し、プロダクティブエイジングに向けた、日常に応用可能な知見を常に探索しています。その中で最新の基礎研究結果の中から、筋肉や眼、骨といった様々な組織で抗老化作用が報告されているニコチンアミド・モノヌクレオチドNMNと呼ばれる経口摂取可能な栄養素に着目しました。NMNとは、生きていくのに必須のNAD+という成分が身体の中で作られる過程において、一歩手前の材料と言われています。そのNAD+は加齢とともに減少することがわかっており、この減少を食い止めることで老化をマネジメントできる可能性があり、NMNを摂取することでNAD+の減少を食い止める可能性があることが様々な基礎研究から明らかとなっています。今回は、NAD+がどんなものなのか、また、NAD+を増加させると筋肉にどんないいことがありそうなのか、これからご紹介していきます。

NAD+とは?

NAD+はニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドの略で、生体内エネルギーの通貨であるATPの次に身体に重要な成分と言われるくらい、生きていくのに必須の成分です。糖を分解してATPを作り出す過程で使われる物質で、それ以外でも壊れた遺伝子を修復する場面にも使われています。体の中ではアミノ酸の一種トリプトファンやビタミンB3(ナイアシン、ニコチンアミド)を元に作られます。NAD+の合成に最も重要と言われるのがNAMPTと呼ばれるニコチンアミドからNAD+を合成する酵素です。脳や筋肉、消化管など全身で働いている酵素ですが、これが加齢とともにどんどん少なくなり、NAD+合成量の減少を引き起こし(文献3)、NAD+の低下の原因になっていると言われています。一方、CD38と呼ばれるNAD+を分解する酵素も存在し、この分解する働きが加齢とともに増加することで、各組織のNAD+量が減少し、加齢に伴い、様々な組織の機能低下を引き起こすと考えられています(文献4)。そしてこのNAD+の減少を様々な方法で抑制することで、加齢に伴う組織の機能低下を防げる可能性が最近の研究から明らかになってきており、現在注目されています。

NAD+前駆体をサプリメントで補充する

この低下していくNAD+に対して、どのようにNAD+を維持していくかということですが、NAD+の前駆体の一つ、ニコチン酸をサプリメントとして飲ませる研究報告もあります(文献1)。この論文ではミトコンドリア病患者を対象として、ニコチン酸を750から1000mg/日で10ヶ月間摂取しています。この容量のニコチン酸はナイアシンフラッシュと呼ばれる皮膚の発赤、紅潮を主とする副作用を引き起こします。エネルギー通貨ATPの生産工場であるミトコンドリアに異常をきたしている患者では血中、筋肉中ともにNAD+量が健常者に比べて低下しているのですが、低下したNAD+レベルがニコチン酸の摂取により筋肉中で2.3倍に、血中で8.2倍に増加しました。

このNAD+をミトコンドリア病患者において増加させることで、腹筋で10倍、上腕の筋力は2.5倍、背筋は2倍と、病気により低下していた筋力の増強が引き起こされることがわかりました。

ニコチン酸摂取により、低下していたミトコンドリアの数自体も増加しており、NAD+を増加させることでより多くのエネルギーを産生できるような変化が引き起こされることがわかりました。

以上の結果はNAD+を増加させたときに引き起こされる筋肉のパフォーマンス向上を示唆するものと思われます。つまり、NAD+増加により筋肉中のミトコンドリア機能が高まり、よりエネルギーを産生できるようになった結果、筋力の向上が引き起こされた可能性が考えられます。

運動とNAD

NAD+前駆体をサプリメント として補充するという方法以外で、レジスタンストレーニングが筋肉のNAD+を上げるのに効果的であるという論文が発表されました(文献2)。
レジスタンストレーニングは、筋肉に比較的強い負荷をかけた状態でトレーニングし、より高い筋肉の肥大効果を得ることを目的としたもので、レッグプレスやベンチプレス、ケーブルプルダウンなどのジムでよく見るようなマシンを用いて行います。この論文では59歳前後の中年の男性女性16名を対象とし、10カ月間に渡り、1日2回/週のトレーニングを続けてもらい、筋力への影響、NAD+量の変化を調べました。その結果、10カ月間のトレーニングにより太腿周りの筋重量が増加、筋力が増強しただけでなく、筋肉中のNAD+濃度がトレーニング前と比較して約2倍に増加していました。この増加により中年被験者の筋肉中NAD+レベルは若い大学生と同程度にまで回復していました。このとき筋肉中のNAD+合成酵素であるNAMPTの量が15%増加しており、運動によりNAMPTの量が増加、結果としてNAD+量が増えている可能性が考えられます。

終わりに

NAD+は筋肉が糖を分解してすぐにエネルギーを作り出すのに重要な解糖系、そのときに出てくる疲れの原因の乳酸を減らす反応いずれにも必要な物質です。今回紹介した論文ではこのNAD+量が運動により増加すること、NAD+を上げることが筋肉のパフォーマンス向上を引き起こすことが示唆されています。筋肉をトレーニングするのはただ単純に筋肉を肥大させるという量的な変化だけでなく、このNAD+をより多く作り出せる筋肉へと自身を変化させることで、より強く、より長いパフォーマンスを出せる筋肉へと質的に変化させる意味合いもあるのかもしれません。

[ 参考文献 ]
1. Lamb DA et al. Resistance training increases muscle NAD+ and NADH concentrations as well as NAMPT protein levels and global sirtuin activity in middle aged, overweight, untrained individuals. Aging 2020, 12, 9447-9460
2. Pirinen et al. Niacin cures systemic NAD+ deficiency and improves muscle performance in adult-onset mitochondrial myopathy. Cell Metabolism 2020, 31, 1-13.
3. Yoshida et al. Extracellular Vesicle-Contained eNAMPT Delays Aging and Extends Lifespan in Mice. Cell Metabolism 2019, 30, 329-342e5.
4. Camacho-Pereira et al. CD38 dictates age-related NAD decline and mitochondrial dysfunction through a SIRT3-dependent mechanism. Cell Metabolism 2017, 23, 1127-1139.