■ 要点
加齢に伴いNAD+はヒトの様々な組織で低下されることがわかっている
NAD+が低下する主な要因3つ
・ NAD+消費が亢進・ 筋力が増強される
・ NAD+合成量が低下
・ NAD+の分解が亢進
NAD+分解が亢進する理由として、老化細胞の蓄積が一因であることが分かってきた
NOMONは最先端の科学を食卓へ届けることを目指し、老化に関する最新の研究成果を日々精査し、プロダクティブエイジングに向けた、日常に応用可能な知見を常に探索しています。その中で最新の基礎研究結果の中から、筋肉や眼、骨といった様々な組織で抗老化作用が報告されているニコチンアミド・モノヌクレオチドNMNと呼ばれる経口摂取可能な栄養素に着目しました。NMNとは、生きていくのに必須のNAD+という成分の一歩手前の材料です。そのNAD+は加齢とともに減少することがわかっており、この減少を食い止めることで老化をマネジメントできる可能性があります。そこで今回はなぜNAD+が加齢とともに低下するのか、その原因に迫った最新の研究成果をご紹介していきます。
NAD+とは?
NAD+はニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドの略で、細胞レベルで生きていくのに必須の成分です。生物が生きていくのに必要な様々な反応で使われ、糖からエネルギーを作り出すのにも使われています。体の中ではアミノ酸の一種トリプトファンやビタミンB3(ナイアシン、ニコチンアミド)を元に作られますが、このNAD+量は加齢とともに低下していく可能性が複数の論文で指摘されています。NAD+はエネルギー産生だけではなく、生体の恒常性を維持するのに重要な役割を持ち、老化との関係が報告されているサーチュインの働きに重要な物質です。NAD+の低下はサーチュインの活性を低下させてしまいます。
なぜNAD+は低下するのか?
NAD+の合成に最も重要と言われているのがNAMPTと呼ばれるビタミンB3の一種であるニコチンアミドから細胞内でNAD+を合成する酵素です。NAMPTは脳や筋肉、消化管など全身で働いている酵素ですが、これが加齢とともにどんどん少なくなることで、NAD+合成量の減少を引き起こします。NAMPTの量は炎症や高脂肪食などさまざまな要因で減少しますが、老化そのものも低下を引き起こす要因となっているようです。
損傷した遺伝子の修復を担うPARPsと呼ばれる酵素はDNAを修復する際にNAD+を消費しますが、このPARPsが働く頻度が加齢に伴い高まることもNAD+の低下を引き起こします。またNAD+の合成の低下、消費の増加以外にも分解が亢進することもNAD+の低下を引き起こします。
NAD+の分解はCD38と呼ばれる酵素によって引き起こされるものであり、この分解する働きが加齢とともに増加することで、各組織のNAD+量が減少し、加齢に伴い、様々な組織の機能低下を引き起こすと考えられています。なぜCD38は加齢に伴い増加しNAD+分解が高まるのか、長い間疑問でしたが、最近の研究結果でその原因が少しずつわかってきました。
細胞老化とは?
私たちの身体を構成する細胞のほとんどが分裂する回数が決まっています。身体から単離した私たちの細胞が試験管の中で分裂する限界を迎えた時、この細胞は細胞老化と呼ばれる現象が起こり、老化細胞となって細胞の増殖がとまることが古くから実験的にわかってきました。当初は試験管の中だけの減少と考えられていたこの現象ですが、その後の研究から、細胞老化が私たちの身体の中でも起こっていること、細胞老化は細胞の分裂増殖以外にもDNAの損傷や炎症、紫外線や放射線、抗癌剤など様々なダメージで引き起こされることがわかってきました。細胞老化を引き起こした老化細胞は私たちの免疫系から逃れ、取り除かれずに組織に止まってしまい、加齢とともに老化細胞が増えていくことがわかっています。またこの老化細胞は組織の機能を低下させるような炎症の原因となる物質を分泌してしまうため、この老化細胞を除去することが組織の老化を止めるだけでなく、アルツハイマー病や筋ジストロフィー(文献2)といった疾患の改善効果を示すこともわかってきています。近年、この老化細胞を除去したり細胞老化を止めたりする方法の開発が世界中で盛んに行われています。
CD38と細胞老化、加齢に伴うNAD+の低下の関係
これまでは加齢に伴い各組織でCD38が増加することでNAD+が分解されるのだろうと考えられてきました。
Nature Metabolismという権威ある学術誌に細胞老化とCD38の関係性について2報同時に別々のグループから報告がありました(文献3,4)。
これらの報告を簡単にですが要約しますと、
これらの報告から、なぜNAD+が加齢に伴って低下するのか、その根本的な原因と詳しいメカニズムが明らかになりました。加齢に伴うCD38の増加は細胞老化がトリガーとなっていたこと、CD38は組織内のNAD+を分解するだけでなく、細胞外のNAD+や特にNMNの分解を促進し、周りの細胞たちがNMNをNAD+の材料として使えなくなってしまうことが加齢に伴うNAD+の低下の一因となっている可能性を示したものとなりました。
NOMON研究所から一言
NAD+を増加させるにはNMNのようなNAD+前駆体を摂取することは効果的と考えられますが、せっかく摂取したNMNもCD38のような分解する酵素の働きによってバラバラにされてしまったら、効率よくNAD+を増加させることができないかもしれません。CD38の量が老化細胞によって増えてしまうのだとしたら、NMNを摂取すると同時にこのようなNMNの分解を抑える方策も同時に考えていくことが、プロダクティブ・エイジング実現の観点では重要であると思います。
今回の新しい発見から日常で私たちが何を実践できるかを考えたとき、NMNを効果的に摂取するためにNMNをカモミールティーと一緒に飲むのは一つの手かもしれません。というのも、Apigeninはカモミールティーに含まれる、フラボノイド(ポリフェノールの仲間)の一種で、このApigeninがCD38の働きを抑制することが知られています。
また今回の論文でマクロファージでCD38の発現を増加させてしまう際にLPSという細菌の構成成分が実験的に使用されています。このLPSというのは我々の身体の中に実は定常的に存在する腸内細菌がそれを持っているのです。加齢に伴い腸管のバリア機能が低下し、LPSが血液中にどんどん漏れてしまうことが報告されています(文献5)。腸活により腸の状態をよく保ち血中のLPSを減らすこともCD38の発現を上げないために重要なことかもしれません。
[ 参考文献 ]
1. Verdin, NAD+ in aging, metabolism, and neurodegeneration. Science 2015
2. Sugihara et al., Cellular senescence-mediated exacerbation of Duchenne muscular dystrophy. Sci Rep 2020
3. Chini et al., CD38 ecto-enzyme in immune cells is induced during aging and regulates NAD+ and NMN levels. Nat Metab 2020
4. Covarrubias et al., Senescent cells promote tissue NAD+ decline during ageing via the activation of CD38+ macrophages. Nat Metab 2020
5. Nagpal et al., Gut microbiome and aging: Physiological and mechanistic insights.Nutr Healthy Aging 2018